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前編
レアスと別れた司教は少女の待つ部屋へ歩を進めた。
「さて、どうしたものか。」
扉に両手をつき大きく息を吐いて俯く。
人がいようといまいと躊躇っているではないか、と自分自身を嘲笑する。
扉をノックする。ぎこちないノックの音が周囲に響く。
「どうぞ。」
中にいる者から扉を開く許可が下りる。
「失礼する。」
恐る恐る開けてみると少女は暖炉脇の椅子に腰かけていた。
いくら暖炉に火が灯っていようとその姿は寒々しい。
「風邪などはひいていないか?」
「はい、おかげさまで。司教様、見ず知らずの私を介抱してくださいましてありがとうございます。このご恩は一生忘れません。」
少女は深々と頭を下げた。司教はその様子を微妙な心持ちで眺める。
「礼を言われるようなことはしていないさ。ただあの吹雪の中を彷徨っていたんだ、だいぶ疲労もたまっているだろう。ゆっくり休みたまえ。」
半分が本音で半分が建前。すべての人間に無償の愛を与えられるほど出来た宗教家ではないのだと痛感する。
結局のところ相手からなんらかのテイクがなければギブをする気にはなれないのだ。見返りのない優しさが自分の中にないことはわかっていた。
見返りを要求しようとすると、少女の思わぬ行動に面食らう。
「これ以上ご迷惑はかけられません。お気持ちだけいただきます。」
暖炉の傍で乾かしてある服に伸ばした手を掴む。
「まだ吹雪は止んでいない。また倒れるぞ。」
困惑しながらも少女は首を横に振った。
「ですが、これ以上迷惑は…!お礼なら寄付金という形で後日させていただきますので…!!」
一歩も引こうとしなかった。このまま言い合っても平行線だ。やむを得ず少女の矮躯を持ち上げる。
「ちょっと司教様!?」
そしてベッドの上に乱暴に下ろす。動転する少女の頭に毛布を覆いかぶせる。
「ここは教会だ。人を救うことはしようとも見殺しにしようとするような場所ではない。」
そのまま寝ていたまえ、と毛布の上から頭を撫でまわす。
「夕飯の支度ができたらレアス…先ほどの修道女に呼びにこさせよう。」
そう言い残すと司教は部屋を後にした。
少女は苦しそうに毛布を引き剥がすと、司教の身体が触れた部分を擦った。
「妙にゴツゴツデコボコしてたなぁ…。」
一方司教はというと、完全に見返りという名の質問をするタイミングを逃したことを悔やんでいた。
「(夕食後…いや、特に用もないのに部屋を訪ねたら警戒されるか…くそっ!)」
部屋を出る前に聞いておけばよかったかも知れない。だが、返答によっては自分は冷静でいられなくなるだろう。そうさせた元凶と面を突き合わせて夕食をとるなど考えただけで不快極まりない。
「彼女は元気そうでしたか?」
急な呼びかけに驚きながらも顔を上げると、レアスの姿があった。
「ああ、今にもここを飛び出そうとしていたぞ。」
「ですが、引きとめたということは…」
レアスの期待を粉々に砕いてみせる。
「言い出すタイミングがなかった。ただそれだけだ。」
つまらなそうに言い放つ。
「まさかこのままきかずに帰すおつもりではございませんよね?」
「当然ただで帰すつもりはない。」
そこまで言ってはたと気づいた。レアスもブリジットも身寄りがなかった。だからこそ彼らは自分の傍にいる。
だが、あの少女はどうだろう?教会に寄付をすると言っていた。それだけ立派な家が彼女にはあるということだ。
みるみるうちに顔が曇った。レアスが心配そうにのぞきこむ。
「司教様…。」
「いや、なんでもない。」
荒くなる呼吸を抑えようと胸元を掴む。
そして自分に何度も言い聞かす。
「(私は司教だ。司教のセルだ。それ以外の何者でもない。)」
気の動転と過呼吸で頭の中が真っ白になり目が眩む。頭の中がミキサーにかけられたかのようにぐちゃぐちゃだ。
「司教様!」
知らず知らずのうちに両手が頭を求める。見えない敵から自分の身を守るかのように体を小さくして頭を垂れ、諸手を乗せる。
震えが止まらない。頬に熱いものを感じる。自分がわからない。何でこんなことをしているのか。だがわからないがわかりたくなかった。わかってしまったら壊れてしまいそうだった。
どうしたい?どうしたら?どうすれば?どう動けば?何て言えば?
拒絶されないんだろう?
突然、思考が停止した。レアスがそうさせた。
「大丈夫です司教様。私たちが付いております。」
頬に流れたものを優しく拭い、大きな体を両手で包んだ。
赤子を寝かしつける母親のように一定のタイミングで優しく体を叩く。
大丈夫です、大丈夫ですよ、と何度も耳元で囁く。
セルは二、三度瞬きし、大きく深呼吸すると頭に乗せていた手をレアスの背中にまわした。
「すまん、もう、大丈夫だ。」
レアスはこくりとうなずくと司教から離れる。
セルは少し考えると立ち上がった。
「今出したばかりでちょうどいい。あの少女の元へ行ってくる。」
ノックする。今度はどうぞ、という言葉が返ってこなかった。代わりに扉が開き、少女が顔をのぞかせる。
「すまない、夕食はまだなんだ。二、三質問いいかね?」
「もちろん構いませんよ。」
中へ入るように促す。そのままベッドに腰かけると躊躇いなくローブをとった。
ローブをとることは戸惑わなかったが、この後の言葉に詰まった。セルの代わりに少女が口を開き、思わぬことを言った。
「ああ、それでゴツゴツだったんですね。」
「ゴツゴツ…?」
少女は頷く。
「先ほど抱えられた時に不思議な感触を覚えたもので。」
「気味が悪いだろう?虫のように緑で硬く、抜けるように白いバケモノのような皮膚だ。」
セルの問いに少女はきょとんとした顔をする。
「そうですか?私はそんなことないと思いますけど…。」
「なまじ人間に近いため余計不気味に映ると思ったのだが…。」
少女はますます首をかしげる。
「海が青いというのと同じくらい不気味でも気味が悪いとも思わないのでこれ以上なんと言ったらいいのか…。」
なんとかフォローする言葉を選ぼうと頭を抱え出す。
「では、外見の話はやめようか。そうだな、喰われそうとは思わないか?」
「うーん、仮にそう思ったとしてもそれは司教様の種が食物連鎖に置いて私たちの上に立つ存在だったというだけですし…。」
バケモノと拒絶されてきた自分をフォローしようと必死に言葉を探す少女を微笑ましく思いながら眺める。
「そもそもこうして私を介抱してくださったんですから、喰われそうなどとは思いませんね。」
あっさりと拒絶を放棄する少女に、再考の余地を与えて見せようとする。
「わからんぞ?こうして安心させておいて喰ってしまおうという算段かもしれん。」
自身を追い詰めようとする意図のわからないセルのいやがらせに少女は思わず笑った。
「じゃあ、なんであの修道女さんたちは喰わないんですか?」
少し考える。まだ穴は突ける、だが明らかに自分の負けだ。
「お手上げだな。私を拒絶しなかったのは三人目か。」
「ははあ、私が司教様の三人目のお友達ですね。」
友達、初めて言われた言葉だった。
「友達、か。お前がそう思ってくれるのなら私は嬉しいぞ。」
その言葉に偽りがないことを表情が表していた。
「都合の付く時に遊びに来ます。もちろんお礼もしに来ますから。」
「いつでも歓迎するが、今度は天気のいい日にくるんだぞ。」
少女は苦笑した。
少女の発つ日がやってきた。
「お世話になりました司教様。近々お礼をしに参ります。」
「礼はいらん。人助けが生業だからな。」
それを聞いてレアスが笑う。
「ありがたく頂いておきましょう、司教様。」
「勘違いしているようだが、そう言うお礼ではないぞレアス。」
漫才を繰り広げる二人を差し置いてブリジットは少女の手を握る。
「もう行ってしまうんですかぁ?ウチさみしい…。」
「またすぐに会えるって。ホラホラ泣くなよ。」
ブリジットの頭を撫でてやり、セルの方に向き直る。
「魔法使いになったらいつでも会いに参りますよ司教様。」
「いつでも、か。」
「いつでも、です。司教様の寿命をも超えてしまいますからね。本当にいつでも構いませんよ。数千年、数万年後でも。」
それを聞いてレアスは安心する。
「よかった。私とブリジットが死んでしまった後のことを考えると、とても心配でしたから…。」
「ええい、余計な心配をするなレアス!」
少女はそれを見て、笑いながら箒に跨る。
「数万年となると退屈だろう。今度武道を教えてやる。」
「ぜひ、お願いします。司教様を満足させられるかはわかりませんが、努力します。」
<あとがき>
命日間に合った!
なんでレアスといい感じになってるんだYO!! 完全体なのにメンタル弱いのはドンマイです(原作において頭脳だってパーヘクトとはほど遠い感じだし、あくまでパーフェクトなのは自称だと思ってる)。
ハッピーエンドにできた…気がする。少なくとも鬱で終わらなかった。よしよし。
ところどころエロを彷彿とさせるようなものをねじ込んでしまったorz
いつものセルなら襲ってるだろうってシーンがいくつかある…な。よくぞ踏みとどまったよ司教様!
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セル贔屓でブロやクウラ、ジャネやタレ、フリなんかもちまちまと。
悪役じゃないけど悟飯ちゃんも贔屓キャラです。