いてくれてありがとう

悟空←セル←フリーザ
セルさんが少し女々しいです、ごめんなさい。

「恋…かな」
「はぁ！？」
頓狂な声を上げながら私の方を見るフリーザ。
「胸がな、締め付けられるんだ。きゅぅっと。」
「肋間神経痛じゃないですか？年寄りみたいですねえ。」
胸を擦る私を見て嘲笑う。
「いやそうじゃないんだ。胸だけじゃなく掌の方もきゅぅっとなる。不思議と苦痛ではないんだ。むしろ心地いい。」
「はぁ…掌…？普通恋なら胸だけじゃないんですか？」
生まれてこの方、死んだ今ですら恋などしたことがない。
”普通”と問われても知る由もない。
「そういうものだろうか。」
「そういうものですよ。」
「フリーザは恋をしたことがあるのか？」
フリーザは黙した。
どうやらしたことがないらしい。
「だいたいセルさんは人造人間でしょう？そう言う感情を持ち合わせているんですか？」
「わからないから聞いてるんだ。」
依然として胸の感覚は消えない。
こそばゆく思いしきりに胸を擦ってしまう。
「胸以外になんか変わったことはないんですか？」
変わったことというといくつか思い当たる節があった。
「何かしていても決まってあいつのことばかりを考えてしまうんだ。」
「ああ、それは確かに恋かもしれませんね。」
腑に落ちないと言った様子。
「あと、会いたい、とよく思う。」
感情を上手く言葉にできなかった。
触れられなくてもいいから、顔を見ることができるだけでいいから。夢でもいい。
そんな想いをやっとのことで言葉に表してみたら、思いのほかそっけなくなってしまった。
「会いたいってことは向こうの世界の住人ですか？」
「そう、会いたくても会えない。」
会っても彼の眼に私は映っていないだろうけれど。
そんな私の想いを知る由もなくフリーザは笑う。
「なら、殺してしまえばいい。」
殺せるはずがない。
殺せるのならば自分はこうまで思い悩んでいないはずだから。
殺せないから彼の興味は私から逸れ、殺せるとしたら私の興味が彼から逸れ。
「殺せないさ。」
悔しさを噛み殺す。
「強いんですか？」
「もうだいぶ遠くに行ってしまったよ。昔は私より弱かったくせに…。」
私を倒すために修行をしてくれたこともあった。そのために私は10日も退屈な思いをして待っていた。
待ちわびた10日後。現れた彼は少し闘ってすぐに降参してしまった。
私は強い奴と闘いたかったんじゃない。
彼と闘いたかったのに。
「もしかして…」
息子なんてどうでもいい。
彼より強いかなんてどうでもいい。”彼が”よかった。
殺されるなら彼がよかった。
「セルさんの好きな人って…」
あの時の彼は今ではずいぶん強くなった。
それはいい。
だけど、だけど、
「孫…」
私には何も言ってくれなかったのに。

「―おめえはすげえよ・・・よくがんばった・・たったひとりで・・・・
　こんどはいいヤツに生まれかわれよ・・１対１で勝負してえ・・・　
　オラももっともっとウデをあげて・・・・・・・またな！」

どうしてブウとは再戦を望むのだ？
なぜ、ブウ”だけ”なんだ？
当時の私に何が不足していたんだ？
お前は私に会いたくないのか？闘いたくないのか？
私はこんなにも…
「悟空ですか？」
フリーザの口から彼の名を聞いたことで我に返る。
「ああ、そうだ。」
「ふーん、成就が難しそうですね。」
「あまりそう言うな。気にしているんだ。」
ぷいと横を向いて見せた。
普段フリーザがしてみせるこの動作にどう反応するのか興味がわいた。
しばらくして指先に何かが触れたことに気づく。
驚いて手元を確認すると人差し指と人差し指とが触れ合っていた。
体勢次第ではまるでヒュージョンのそれと言った感じに。
「僕たちがヒュージョンして倒せばいいんですよ。僕をこんなにしたあいつとついでにセルさんの恋敵をね。」
あくまで私の恋敵はおまけらしい。
それでもフリーザからの思わぬ申し出が嬉しかった。
「そうだな。協力してくれるか？」
「別にセルさんのためじゃないですよ。僕は僕の復讐のためなんですからね！」
ツンとした態度だがフリーザなりの心遣いだったのだろう。
私は思わず顔を綻ばせて笑った。
胸を締め付けていた感覚がなくなっていることに気づいたのは少し後のことだった。


＜あとがき＞
ブウにやきもち焼くセルさんと悟空にやきもち焼くフリーザ様。
私にしては珍しく悟飯ちゃんがアウトオブ眼中なセルさんを書きました。

タイトルの意味ってのは特に考えてないです。
セルさんがフリーザ様に対して思ったことってのが妥当かもしれません。今思いつきでいいましたすいません。

ちなみに掌もきゅぅっとするのは私の症状です。
他の人も恋をした時になるかどうかは知りません。実際どうなんでしょうか？